訪問看護主任 Sさん
訪問看護主任 Sさん
わたしの大切にしたい看護は、ターミナル期の療養者に対して、その人らしく安心して過ごせるために本人のニーズをどう拾っていくか、また、限られた時間の中でいかに本人・家族に寄り添うことができるかを常に意識して関わることです。
私がそれを強く実感したのは、70歳代の男性で、認知症があり、喉頭がんターミナル期の療養者と15歳年上の妻との関わりでした。当初は転移などはみられず、手術の適応はありましたが、本人が入院をしても手術を拒否し離院してしまうなど、何度も話し合いを積み重ねたものの、妻も本人の意思を尊重し、最期まで手術を希望されることはありませんでした。
がんの進行とともに、頸部から浸出液が出てきたり、腫瘍からの出血などもみられていましたが、一時的に入院はするものの、状態が落ち着くと自宅に戻り、二人で行きたいところへ行き、食べたいものを食べ、楽しく過ごしていました。本人は高齢の妻のことを心配しておりましたが、妻も自分の方が先に亡くなってしまうかもしれないと考え、意思決定に関してはずっと悩まれていました。それでも『家にいると好きなことができる』『入院すると話ができなくなる』という本人の思いを尊重し、妻も『最後まで一緒に過ごしたい』と、自宅で過ごすことを選択し、献身的に介護をされていました。しだいに腫瘍からの出血が増え、自宅で大量に吐血し、最後は妻に看取られながらご逝去されました。後日、ご挨拶に伺った際に、妻より「最期まで自宅で過ごせてよかった。最期を看取ることができて良かった。」と話されていたことがとても印象に残りました。
私は、訪問看護にきて3年目になります。転移がないのであれば手術をした方がもしかしたらもっと生存できたかもしれないなどと考えることも、医療者の立場としては往々にしてあると思います。しかし、それらが果たして本当に本人や家族の望むことであるのかと問われると、決してそうではないのだということを、訪問看護を通して学びました。特に、今回のようにターミナル期にある療養者を受け持つ際には、『残された時間は限られている』ということを常に念頭において関わるようにしています。また、関わる際には、何よりも信頼関係を構築することを心掛けています。ケアの技術も大切ですが、本人のニーズをどのように拾っていくのか、そのためには傾聴力と寄り添う気持ちが何よりも大切だと思います。信頼関係を構築できると、本人や家族と一対一で話し合うことができ、それぞれの思いを汲み取った上で、その人らしく安心して過ごせるための最善を考えていくことにもつながるのだと思います。今回、療養者本人は最期まで煙草を吸ったり好きなことをして過ごしていました。また、妻は、「ギリギリまで(自宅に)おいておきたかった。(入院をしたら)帰れないかもしれないと思った。」などとお話しされていました。自然な形でのお看取りが叶えられたのは、ジレンマを感じながらも、本人や家族に寄り添い、ニーズを捉えることができたからだと感じています。訪問看護の現場ではいろいろな形での看取りのパターンがありますが、これからも、『傾聴力と寄り添う気持ち』を忘れずに、看護を提供していきたいと思います。